ALS program

「ALSを治療可能な世界」を目指して、創薬事業も我々の大切なミッションです。

The NMJ is a target of our drug discovery

神経筋接合部の正常と機能破綻

筋肉(骨格筋)はヒトの体の中で、最も大きな組織であり、ありとあらゆる動作に必須の役割を果たします。しかしながら、筋肉だけでは私達の意思通りに体を動かすことはできません。意思通りに筋肉を動かすためには、運動神経が筋肉に接合し、アセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質を筋肉に対して分泌することでコントロールする必要があります。この運動神経と筋肉を繋げる役割を果たしている組織を神経筋接合部(Neuromuscular junction, NMJ)と呼びます。したがって、NMJは私達が動くこと、立つこと、話すこと、食べること、呼吸することなど、日常の様々な基本的な動作を制御しています。そのため、NMJが正しく形成され、健全な状態を維持することは、私達が健康な生活をするために必要不可欠なことです。 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS)は感覚や思考が冒されない一方で、運動機能が徐々に失われていく重篤な難病です。一部の患者さんは遺伝性(家族性)であることがわかっていますが、大部分の患者さんでは孤発性であり、発症に至る分子機構が不明であるため、治療法開発が困難な状況です。ALSの患者さんの運動神経は、何らかの原因によって死滅していくことが知られています。ALSモデル動物を用いた研究では、初期の段階からNMJの異常が認められることがわかっています(図1、参考文献1)。運動神経が筋肉から剥がれ、筋肉の制御ができない状態が誘導されたことを示唆しています。 弊社は、「正常に形成され、維持されていたNMJが、何らかの原因によって正常に維持できず、運動神経と筋肉が乖離してしまうこと」が「なぜ引き起こされるのかを理解すること」が、ALSの原因を解明するために非常に重要なのではないかと考えています。そして、NMJにおける運動神経と筋肉の接合を強化または促進することが、ALSの新たな治療方法の確立に繋がるのではないかと考えており、弊社ではNMJをターゲットとした創薬研究に取り組んでいます。

Schaefer. et. al. J Comp Neurol. 2005 Sep 26;490(3):209-19. ALSモデルマウスの筋組織の免疫染色像。通常は、緑で示される運動神経と、赤で示される筋肉上の受容体部が重なり正常なNMJ(黄)形成している(A3)。一方、運動神経末端が筋肉から乖離している病理像が観察される(A1、A2)。

NMJはどのように形成され、維持されるのか?

NMJの大部分は胎児が母体の中で成長する段階で形成され、生涯にわたって維持されます。この過程が正常に行われるためには運動神経と筋肉の相互作用が必要不可欠です。この相互作用においては、筋肉に存在するMuSK (Muscle Specific Kinase)と呼ばれる受容体型キナーゼタンパク質や、運動神経から分泌されるAgrinという糖タンパク質が非常に重要な役割を持つことが長らく知られています。これらに加えて、近年、Lrp4 (Low-density lipoprotein receptor-related protein 4)という筋肉に存在する膜型タンパク質が運動神経に働きかけ、NMJの形成を誘導することが明らかとなりました(参考文献2)。図2に示すように、精製したLrp4タンパク質は運動神経に直接作用し、その場に運動神経伝達物質の分泌サイトを誘導します。つまりLrp4はNMJ形成において筋肉と運動神経の接合を構築するために決定的な役割を果たします。さらに、Lrp4は一度形成されたNMJを維持するためにも非常に重要であることが示されています(参考文献3)。以上のことから、Lrp4は直接的に機能的なNMJの形成および維持に重要な役割を担っています。

創薬のターゲットとしてのNMJ

Lrp4の正常な作用が機能的なNMJの形成および維持に重要であることは、Lrp4タンパク質の機能不全が、直接または間接的にNMJの機能不全に寄与することを示唆しています。逆に、Lrp4の運動神経への活性作用を強化または促進することは、NMJの機能促進に繋がる可能性があり、有望な創薬ターゲットとして私達は考えています。私達は、Lrp4の運動神経に対する活性に注目し、擬似的な神経筋接合部を培養細胞上に構築することで、NMJ形成の強化や促進をターゲットにした創薬を目指しています。

Yumoto. et. al. Nature. 2012 Sep 20;489(7416):438-42. 培養運動神経細胞にコントロールタンパク質および精製Lrp4タンパク質を作用させた時の効果。培養運動神経細胞(緑)にコントロールタンパク質を作用させると、神経末端の分化を示すシナプシン(赤)の凝集は認められない(左列)。一方、培養運動神経に精製Lrp4タンパク質を作用させると、シナプシンが凝集し(赤)、NMJ様構造を形成する(右列)。

References

1.Schaefer AM, Sanes JR, Lichtman JW. A compensatory subpopulation of motor neurons in a mouse model of amyotrophic lateral sclerosis. J Comp Neurol. 2005 Sep 26;490(3):209-19
2.Yumoto N, Kim N, Burden SJ. Lrp4 is a retrograde signal for presynaptic differentiation at neuromuscular synapses. Nature. 2012 Sep 20;489(7416):438-42.
3.Barik A, Lu Y, Sathyamurthy A, Bowman A, Shen C, Li L, Xiong WC, Mei L. LRP4 is critical for neuromuscular junction maintenance. J Neurosci. 2014 Oct 15;34(42):13892-905.