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Jiksak Bioengineering では、神経筋接合部(NMJ)に着目し、神経筋疾患に対する新しい診断/治療方法として弊社独自のDLC (Drug Linked Carrier)技術の開発を進めています。
私たち人間を含め、動物というのは動く物体です。現代を生きる私たちの日常において、何気なく行っていることの一つ一つが、実は「動き」であることを意識している人は少ないのではないでしょうか。
皆さんが普段、腕や指を動かしてスマートフォンを操作したり、時には足を動かして散歩を楽しんだりできるのはなぜでしょうか。それは私たちが「動く」ことができるからに他なりません。
「動く」ということは、脳が信号を出し、その信号を受け取った骨格筋が収縮することによって成立します。この統制された骨格筋の収縮と弛緩が「動く」ということです。脳からの信号は電気的信号であり、これを脳から骨格筋に伝達する神経を運動ニューロンといいます。日常生活の中で特別な意識をすることはありませんが、筋肉の収縮は身体を動かすことにおいてもとても大切です。
電気的信号は脳から運動ニューロンを通って筋肉へ伝わります。運動ニューロンから筋肉へ電気的信号が伝わる時、実際には特有の構造が必要になります。
この構造のことを神経筋接合部(Neuromuscular Junction, NMJ)と呼びます。NMJでは運動ニューロンの末端部分(Motor Neuron Terminal, MNT)と筋肉が密接しており、この受け渡しに重要な構造をとっています。私たちが身体を「動かす」度に、電気的信号はNMJを通って筋肉へと伝わっていくのです。
運動ニューロンは、NMJを通して電気的信号を筋肉に伝えています。一方で、筋肉がNMJを介して運動ニューロンに栄養を供給することもあります。このようにNMJは電気的信号だけでなくさまざまな物質の受け渡しの場所にもなっており、受け渡しに異常があれば運動ニューロンも筋肉も正常に働くことはできません。この相互作用が維持されることが、双方にとって必要不可欠なことなのです。
運動ニューロンと骨格筋の相互作用を維持するためには、NMJが正しい構造をとる必要があります。健常な NMJ では、運動ニューロンが密接に骨格筋と接合して相互作用が滞りなく実行されます。一方で、神経筋疾患と呼ばれる疾患では運動ニューロンが骨格筋から剥がれ、相互作用がうまく実施されない状況に陥ってしまいます。
運動ニューロンが骨格筋から剥がれると、運動ニューロンからの電気的信号は骨格筋にうまく伝達されません。この時、運動ニューロンや骨格筋自体はまだ生きており、その機能を維持している状態です。しかしながら、運動ニューロンからの電気的信号が伝わらないため骨格筋は収縮できない、つまり運動麻痺が起こる状態に等しいと言えます。またこの乖離したNMJでは、骨格筋から運動ニューロンへの作用も破綻していると考えられるため、運動ニューロンも栄養因子の枯渇などの状態に陥っていると考えられます。
サルコペニアは加齢によって引き起こされる筋萎縮のことを指し、放置しておくと運動機能がどんどん失われてしまいます。サルコペニアの有病率は8.2%、推定患者数は370万人と報告されており、高齢化を反映してサルコペニア患者は年々増加する傾向にあります。健康長寿が望まれる現代において、このサルコペニアの診断法や治療法が存在しないことは大きな問題です。私たちのサイエンスはこのサルコペニアにも応用できることが期待されます。
神経筋疾患では運動ニューロンが骨格筋から剥がれてしまいます。サルコペニアでも同様です。我々の開発している治療方法の目的は、以下の2つです。
NMJが健康な状態であると、運動ニューロンからのシグナルが骨格筋に効率的に伝達されるので、筋収縮が実行されます。また、骨格筋からの栄養因子も運動ニューロンへ作用できるため、運動ニューロンの健康も保持できます。NMJによって相互作用している運動ニューロンと骨格筋両者の健康を、NMJの健康を保持することで回復できるのではないか、これが私たちの研究開発戦略です。
Jiksak BioengineeringのDLC (Drug Linked Carrier)とは、NMJの運動ニューロンを特異的に認識する分子を用い、診断及び治療を目的としてNMJに効果的な薬剤を届ける技術のことです。
Jiksak Bioengineering では、DLC技術の「NMJの運動ニューロンを特異的に認識する分子」としてプロトタイプ 「JB00」を獲得しました。JB-00をマウスに静脈注射後、その骨格筋のJB-00を可視化したところ、 JB-00が NMJの運動ニューロン特異的に送達されていることが確認されました(下図)。これは電子顕微鏡によっても確認されています(data not shown)。
JB-00(Jiksak DLCのプロトタイプ)の静注
マウス骨格筋の採取(72h post injection)
JB-00の可視化
Jiksak BioengineeringのDLCはさまざまな応用が考えられます。
例えば、低分子をペイロードとして、運動ニューロン特異的にその活性を届けることで、運動機能を調節することができるようになるかもしれません。または、miRNAやsiRNAおよびgRNAなどをペイロードとして、運動ニューロン特異的な遺伝子発現のコントロールも可能になるかもしれません。DLCにRIなどの標識をしておくことは、非侵襲的なNMJの可視化を実現するツールとなるかもしれません。
このようにペイロードに使用する物質を改変することで、私たちのDLCの使用用途は非常に大きな可能性を秘めているのです。